2022年09月14日

デトックスと1000本ノック


以前読んだ角田光代さんのエッセイの中で、千本ノックの話がありました。
野球の千本ノックではなくて、小説の、です。

小説家としてデビューされた後のある時期、
小説が上手くなりたくて、千本ノックのように
一心不乱に打ち返すように執筆に明け暮れる、そんな時期があったのだそう。


スケールは全然違いますが、分かるなーっていう部分もありまして。
実は僕も「上手くなりたくて」っていう訳ではなかったのですが、
独立する前の設計事務所が某ハウスメーカーのための参考プランという仕事をしていて、
その手伝いをしていた時期があります。
東西南北あらゆる接道の架空の敷地で、よくありそうな大きさ、形状の敷地に対して
住宅のプランを作るという仕事です。
要するに、ハウスメーカーの営業マンさんがそれをカバンに入れておいて営業に向かい、
その場でその敷地に似た条件のプランを取り出して、

「お客様の敷地形状、大きさ、接道ならこのプランですね!!」

っていうための営業道具です。
だからとにかく「数」が必要な訳で、1ヶ月で100プランくらいを作ってました(笑)。
若い僕にとっては面白くもなんともない仕事だったんですが、
少なくとも「住宅として破綻」してるとやり直しなので、きちんと住宅として成立している事だけを
目指して機械のようにプランを作ってったのです。

いろいろ自分のこれまでを思い出す時に、この仕事はやって良かったなーと思える仕事の一つです。
この「筋トレ」のおかげで、いろいろ変な事ばっかり考えてると思われがちなニコ設計室のプランが
実は案外常識的な住宅でもある、という事につながっているのでは?と僕は思っていますし、
何よりも道が南にあろうが、北にあろうが、どんな形であろうが、ちゃんとした住宅にはする事ができる、
っていう不思議な自信にもつながった僕にとっての千本ノックでもありました。




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さて話は変わりますが、
実は5月27日から、毎日インスタグラムに投稿する、っていうのをやっています。
もう3ヶ月くらい過ぎたからちょっと書いてもいいかなー、、、、、。

きっかけは偶然で、ニコのお施主さんから「楽しみにしてるのに全然ニコのインスタ更新されませんね〜、、、。」
って言われた事です。
僕は僕なりにはやってるつもりだったんですが、見る人にとってはそうだったんだなぁ、、、って思う事があり。

それで試しに1ヶ月、毎日やってみよう、って思ってやり始めて1ヶ月経った頃、

「ん??なんかやめるタイミングどうしよう、、、、。」

って思い、せっかくなら続けてみよう、って思い今日にいたっています。
実は一応、続ける目標の日は決まっているんですが、まだまだ先なのでそれは言いませんが、
ちょっとした自分の中でのチャレンジにもなっている今日この頃。



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やっぱり毎日毎日、写真を選んで、短くても文章を書くって、なかなか大変です。
時間もそんなにかけたくありませんし。

毎日やる、っていう事だけは決めているので、そのうちネタ切れにもなるかも知れません。
でも逆に、これまで20年以上考えてきた事、気づいた事がそう簡単にネタ切れになる程度のものなのか?
っていう事に対するチャレンジでもあります。

だから自分の中にあるものをただひたすらに絞り出し、デトックスしていきたいと思っている今日この頃。

そして一番楽しみにしているのは、
もう出し切れないくらいに絞り切った時、はたして僕は何を書こうとするんだろう??っていう事です。

なーんてストイックな筋トレみたいな感じで書いちゃいましたが、
正直、いつまで続くことやら、、、、、目標の日はまだまだ先です(笑)。




でも、この僕の千本ノック、
やって良かったのは、ニコの若いスタッフ達が、「へーこんな仕事もあったんですねー!」っていう気づきにも
同時になっている事です。
いまニコにいる3人の20代の若者たちは、知っているようで知らないこれまでの仕事もたくさんあります。
かといって、全部を一度に教えるのも無理な話。

そういう意味で、ひょんな事からはじめた僕のデトックス千本ノック。

若者たちの肥やしにもなってくれたら嬉しいなーって思う今日この頃です。





posted by 西久保毅人 at 22:43| 2022年.9月の気付き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月23日

時間をかける 時間がかかる


2019年にエスナレッジさんより出版させていただいた「家づくりのつぼノート」。

いろんな方のご尽力で出版させていただいて早3年が経ちました。
たくさんの方々に読んで頂く事ができて、この本のおかげでたくさんの出会いがあったのですが、
最近また嬉しい出会いが、、、、。

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なんと今年の夏にニコ設計室のインターンに申し込んで来てくれた学生さんは、
高校3年生の時に、この本を手に取ってくれて建築やりたいっ、って進路を決めたそうなのです!!!
本を書かせていただいてこれ以上に嬉しい事はないかも知れないなー、っていうくらいに
嬉しい出来事でした!

この本はこれまで頼んで頂いたたくさんの方々への感謝を込めて書いた本だったのですが、
同時に僕の裏テーマとしては、建築を学んでるけど悩んでる学生さんたちに

「建築ってこんなに面白くて自由なんだなー。 私もこういう仕事ならやってみたい!」

っていう事が伝わるといいなーって思いながら書いた本でもあったからです。
だからめっちゃ嬉しかったです!

実は2年前にこの学生さん、大学に入学した1年生の年に中野の「月のとびら」に本を持って
会いに来てくれていました。それから2年。
建築への想いが続いていて良かったなー、とつくづく思いました。

今回はあれから2年後っていうのがまた嬉しい事でした!
来るかな、来るかな、、、とちょっと心待ちにも、していたものでしたしね(笑)

人生まだまだこれから。
その子の想いがもっとずっと続くといいなぁ、、、、。


さて関連した話。
工学院大学で数年前から2年生の設計の授業を担当させていただいているんですが、
今年の後期だけ、1年生も見させていただく事になりました。

これまでもいろんな場所で大学生の設計の授業はしてきたんですが、1年生は初めてです。

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大学の建築学科の設計演習の授業って面白いなーと思うところの一つは、
1年生の授業とはいえ、デザインの授業には変わらないという事です。
つまりデザインって、実は素人もプロも関係ないんですよね。
良いものは良い、かっこいいものはかっこいいし、センスあるものはセンスあるもの、っていう世界であることは変わりません。

逆にダサいもの、カッコ悪いものは、1年生であれプロであれ同じ目線で判断されてしまう授業でもあるのです。

つまり僕たち教える側も、ついつい本気で学生の作品を評価しがち、っていう事でもありますので、
どうしても「大人みたいにませている子、器用な子」が高評価になりがちなのです。それが一年生と言えども。

そんな中で高評価の子たちの作品を見ていると、
「手数少なく、さらりとセンス良く」
作られた作品が多いなーという印象を受けました。

でも逆に、完成形はぜんぜん幼稚な作品なのだけれど、
「めちゃくちゃ時間をかけて、何度も色を塗り直して、作り直して、また手をかけて、、、。」
っていう「その子の1週間の軌跡」が目に浮かぶような作品もありました。

つまりその子は、作り上げる事に「時間をかける」事ができる子なのでしょう。
あーでもないこーでもないと悪戦苦闘しながら、家で悶々と手を動かしている姿が目に浮かびました。

きっと作りながらワクワクしてたんだろうなー。
わかるわかるその気持ち!

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どっちが良いとか悪いとか、っていう話じゃないんですが、
そんな1年生の作品を見ながらふと思う事がありました。

それは
「実際の建築って、さらりと出来上がるもんじゃない」という事です。

もちろん基本的なアイディアは短時間で作り上げる事も可能なんですが、本当に建つまでには
めちゃくちゃ長いプロセスと時間がかかるります。
だからそのバカみたいいめちゃくちゃかかる「時間」に耐えられるか?
っていうのが、実は建築家の一番大切な資質なんじゃないかとも思うのです。
他の職業でもおんなじ事が言えるのではないでしょうか?


そういう意味では、建築の設計において
実は一番大切な素養って、


自分の作っているものに、あーでもないこーでもないと無駄かもしれない努力を
時間の限りやらずにはいられない、つまり「時間をかけられる」能力

そして
完成するまで早くても1年とか2年とかの気の長い現時間がかかってしまう間、
想いを持続させる事ができる能力。

なんじゃないかなー。実は。
って思いました。

こういう能力って、学校の成績でははかる事はできません。
分かりやすい評価として目に見える事でもありません。
でも少なくとも僕がこれまで教えてきた子で、卒業後に活躍している子達、活躍しようともがいてる子達は、
最終的な大学時代の成績は良くなくっても、
この二つの能力をひしひしと感じられた子達だなーってつくづく思います。


どんな情報でもググれば簡単に手に入るし、
映画やドラマも倍速の早見で見ちゃう人も多いという、急がされているこの時代。
実は身につけるのが一番難しい能力かも知れませんね。


でもそんな時代の中でも実は案外、いるものです。
そして時々、授業の中でこういう子達に出会うととても嬉しいなー!と思います。

もしかするとこの授業では良い評価はあげられないかも知れない。
もしかするとたったの1、2年ではたどり着けないかも知れない。

でも

「よし、いいぞ!!その調子! がんばれがんばれ!!!」

って思う今日この頃なのです。


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posted by 西久保毅人 at 00:03| 2022年.9月の気付き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする